Mong (k

実家に帰ると、もう既に僕の両親はいなくなっていた。
二人とも死んだのかもしれなかった。
といってもぬけの殻ではなく、見知らぬ親子が住んでいた。
その親子は僕の家族とは比べ物にならぬほど理想的だった。
母親は昼から酒を呑んでいなかったし、父親はちゃんと大学を卒業しており、息子は癇癪をおこして家の中のものを壊していなかったし、娘は精神的な問題を持ってはなかった。
聞けば両親はもうここには住んでいないという。
しかしさすがに僕の家だと思って帰っているので寝床が無いのは釈然としなかった。
僕は家族の制止も気にせず自分の部屋の引き戸を強引にスライドさせた。
しかし何故か僕の部屋には平野綾が住んでいた。
平野綾が住んでいたら仕方が無いので、僕はその家から退散しようと考えた。
するとそこの奥さんが寝床も無いのでしょうからとりあえず泊まって行きなさいと平野綾の部屋の(そこは僕の部屋だったわけだが)、その隣の6畳の哀れな和室をかしてくれた(そこは母の寝床だったわけだが)。
僕は自分の家のはずなのに所在の無さを感じていた。
奥さんに聞けば平野綾はよくわからない事情で居候しているという。
居候といっても僕の実家は大阪の都心部まで片道一時間かかるような辺鄙なところなのに何故居候する必要があるのか、と思ったが僕には本人に聞く勇気は無かった。
僕は平野綾と隣室になったわけだが、実際なんの幸福も損害も被らなかった。
ただただ自分の部屋が面識の無い女性に占領されて不思議な感覚であった。
そして僕自身が居候の身分であることに気付き、そのことに衝撃を受けた。
とはいえそこの家族は非常によくしてくれた。夕飯もちゃんとふるまってくれた。
平野綾も一緒に食べていた。台所に6人も集まって食べたら相当狭いのだが、狭いなりに楽しい食卓であった。
平野綾もそれほど打ち解けていないと見えて僕と同様に他人行儀であった。
僕は僕で平野綾に対してはさらに他人行儀で、すれ違うにも「ああどうも」と言うのさえ吃音になった。
僕はなんだかんだでずっとお世話になった。
何週間か経った後に、テレビをみんなで見ていると息子と娘と父と平野綾が幸せそうに寝始めた。
奥さんは皿を洗っていた。
僕はそっと平野綾の後ろに近づいて、その後姿を携帯電話で撮影した。
綺麗な黒髪であった。(何故髪が黒かったのかはわからない)
僕はそのまま和室へと戻り荷物をまとめはじめた。
僕は自分の家のはずの家を出る決意をしたのだ。


そこで目が覚めた。
なんだか不思議に強烈な印象を持ったのでメモしておく。
Mongとは韓国語で夢、という意味である。
起きた瞬間に変なMongだったと思ったのでそういうタイトルになった。